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2013年11月30日 (土)

2013/11/21~24 立山バックカントリーガイド

今回、立山において目の前で起きた雪崩で7名もの尊い命が奪われてしまった。亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈りします。
その時の状況を忘れないよう、今回は詳細に記録します。

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11/21
雪のため、扇沢で駐車するのに一苦労。一番下の無料駐車場は全く除雪されてなかったので自分の車で除雪をしてなんとか停められた。
室堂はやはり天気が悪い。雷鳥荘に直行してチェックインして午後から何本か滑る。しかし視界が悪いので斜面の様子が全然わからず、平衡感覚もおかしくなって酔ったような感じになってしまう。早々に引き上げて風呂に入って酒を飲む。

11/22
前日と同じような天気で、午前数本、午後も数本滑っただけ。雪質はいいのだが、いかんせん視界が悪い。探るような滑りになってしまい、全然面白くない。こういう時は風呂に入って飲むしかない。まあのんびりできてそれはそれでいいのだが。
午後滑っている最中、沢状地形の側壁みたいなところで破断した。極浅い積雪だったので全く問題はなかったのだが、しかしやはり気持ちが悪い。積雪が不安定である。

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11/23
夜まで吹雪いていたけど予報通り朝から快晴。劇的だ。どのお客さんも皆興奮気味で殺気立っている。ここに今回の雪崩事故の伏線があったような気がする。

我々も昨日までののんびりした雰囲気から一変してせかせかと出発する。キャンプ場までの最初の一本、やっと会心の滑りができた。かなり気持ち良かった。
剣御前に上がる夏の登山道がある尾根をハイクアップして標高2650mぐらいのところからドロップする。雪質も展望も良く、爽快な滑りができた。お客様も嬉しそう。

この日立山に上がってくるお客様と11時半にキャンプ場で待ち合わせ予定なのだが、それまでの小1時間ほどの時間でどこを滑ろうかなと大走りの方を見た。大走りの尾根上には何人かハイクアップしている人がいて、その左の沢の中には数本滑走ラインが付いていた。「よくあの沢の中を滑るなあ。気温が上がってきたけどあそこだけはまだ日影だからきっといい雪を求めて入ったんだろうな。」と何気なく思っていた。この『よりいい雪を求めて』とか『滑った跡があるからあそこは大丈夫だろう』といった心理が働くのはバックカントリーをやってる人ならよくあることかもしれないが、これが危ない。

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大走りを少しだけ登ってその右側を滑ってキャンプ場に行こうと決め、大走り方向にトラバース気味に滑り、ハイクアップの踏み跡からシールを付けて登りだす。大走りの尾根の取り付き付近には4~5名のパーティがのんびり休んでいた。そのパーティは我々がシールを付けて登りだした頃休憩を終え、尾根の方ではなく沢を横切るような方向に動き出した。先頭のリーダーらしき方が山の斜面のどこかをストックで指しながら「どこを滑ろうか」などと相談しながら歩いていたのを記憶している。僕は「あの人達はどこに行くつもりなんだろ。」と思いながらゆっくりと登っていった。時間は11時近い。先ほど4~5名のパーティが休んでいた地点に差し掛かった。その時点でそのパーティと我々との距離は50m~80mほどだったろうか。

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とその時、その4~5名のパーティの誰かが「あっ、雪崩だ!」と叫んだ。「えっ?」と思いながら瞬間的に僕も上を見た。我々のところから沢の中は全く見えないのだが、尾根越しに雪煙が見えたので「これはヤバい」と思い、咄嗟にお客様に「逃げろ!」と叫んでシールを付けたまま下に向って滑り逃げる。途中で振り返ったらお客様の1人が転んでいて、その後ろをものすごい勢いで雪煙を巻き上げながら雪崩が飛んでいく。まるでヒマラヤの雪崩のような規模。

雪崩は我々の横を通過し、斜度が緩くなってからもダラダラとしつこく流れていき、結局デブリ末端はけっこう下の方まで行ってしまった。

落ち着いて周りを見渡すと「雪崩だ!」と叫んでくれたあの4~5名のパーティは全く見えない。巻き込まれてしまったのは確実で、すぐにでもビーコンサーチに入りたかったがなにしろ規模が大きかったし、また別のところから出るんじゃないかという恐怖感でとてもすぐデブリの中に入る気がしなかった。

お客様にキャンプ場まで先に行っててもらうよう指示を出し、たまたま近くにいた知り合いのガイドT氏と共に捜索に入るため尾根をハイクアップする。尾根の上部にいた人に確認したら、どうも沢の中には我々の近くにいた4~5名パーティ以外にも人がいたらしいことがわかる。

尾根の途中からまずT氏が現場に入り、ほどなくビーコン反応があったので自分を含め、上から下りてきたボーダー3名のうち2名と現場に入る。尾根上には1名見張りを立てた。下の方でも捜索が始まっていて、早々に「いたぞ!」という声が聞こえてきた。

ビーコンが近いことを知らせているが、1m以上下だ。4人で猛然と掘り始める。汗だくになりながら必死で掘る。いつの間にか他にも応援の人が来ていて、最終的にはその場所に6~7名ほどいただろうか。堀り手を交代しながら必死に掘り、ようやく足の一部が見えた。見えたとたん「おーい、今掘り出してやるからな。」「ガンバガンバ!」と口々にいろんなことを遭難者に声掛けしながらさらに猛然と掘る。そしてやっと頭が出た。男性だ。うつぶせの状態で、頭が斜面の下。ザックは背負ったまま、ブーツも履いたままだったがスキーやストックはなかった。

ここまで掘り始めてから30分ぐらいは経過していたと思う。残念ながら顔色は既に土気色で、頚動脈や腕の脈をとってみたが全く触れない。呼吸もない。遭難者を地上に引きずり上げ、合掌をする。

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下の方の数箇所でも遭難者が掘り出されていて、富山県の防災ヘリと県警ヘリの2機で順々に搬送されていった。僕達が掘り出した遭難者もヘリが発着するところまでツェルトにくるんで搬送し、警備隊に引き渡したところで僕は現場を離れた。後からわかったことだが、もう1人埋まっていたらしく、午後になって掘り出されたようだ。合計7人が犠牲になってしまった。

先にキャンプ場に行っててもらったお客様は下山し、11時半にキャンプ場で待ち合わせの予定だったお客様と合流し、ガイド活動に復帰する。とは言っても気持ちが落ち着かない。お客様には申し訳なかったが、正直自分自身は気分が乗らなかった。それでも1本ハイクアップして滑って雷鳥荘に帰る。帰る途中、雷鳥沢や山崎カールの方でも雪崩が発生した。

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雪崩発生区の写真1






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雪崩発生区の写真2

破断面がすごい。




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雪崩発生区の写真3

滑走ラインが途中で途切れてる




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11/24
朝のうちはあまり天気が良くなかったので無難に雷鳥坂を1本滑る。キャンプ場から川を渡ったところでシールを付けてたら警備隊の方が来て「昨日に引き続き今日も積雪が不安定なので沢には入らないように。」と指導された。言われなくても沢の中には入る気がしなかったが。

昼近くになって天気が回復してきたのでキャンプ場近くのちょっとしたピークで何本か遊んで早めに下山した。

帰り際、雷鳥荘の近くで共同通信の記者から昨日の雪崩について取材を受けた。この日は警備隊や報道記者があちこちにいて報道ヘリもぶんぶん飛んでて騒々しかった。

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