追悼 磯貝猛さん
昨日の朝、剣岳登頂後下山している最中に”そうたい松本(松本警察署)”からの無線を傍受した。時々断続するものの「ずいぶん遠い距離なのによく入るなあ」と感心しながら聞いていたら、どうも北穂で事故が発生したらしい。しかも2件立て続けに発生したようで、どっちを先にレスキューするかを現場の隊員(おそらく北穂小屋の方)に確認しているのが聞こえた。1件は「50mほど滑落・・・・」と断片的に聞こえたのだが、まさかそれが磯貝さんだったとは・・・
磯貝さんと初めてお会いしたのは丹沢・塔ノ岳の山頂にある尊仏山荘で。自分は山中湖から大山までの丹沢全山縦走の最中の宿泊で、磯貝さんは山と渓谷社から出版するガイドブックの取材のために何日も泊り込んでいた。
玄関を入ってすぐ左側の談話室みたいなところで酒を飲んでいたら磯貝さんの方から話しかけてきた。
「どこから歩いてきたの?」
「山中湖からです。」
「ほー、そういう歩き方するのは珍しいなあ。どこの人?」
「白馬です。」
「えっ、白馬か!俺は有明だよ。」
「ほんとですか。近いじゃないですか。」
とそんなやりとりがあったのを懐かしく思い出す。
磯貝さんはバックカントリーのガイドもやっていたので春には天狗原あたりでよく行き会い、山の情報などを交換した。「一緒にB.Cのガイドやろうよ。」と持ちかけられたこともあった。
最近ではauのサイトの仕事を一緒にやるようになり、打合せなどでお互いの家を訪問したりした。自分のパソコンに入っている写真編集ソフト”Adobe Photoshop elements”というソフトは磯貝さんがインストールしてくれたものだ。
その飾らない人間性と人懐っこさから、お客さんからいつも「磯ちゃん」と親しげに呼ばれていてファンが多かった。
そんな磯貝さんはあっけなく逝ってしまった。
北穂の、しかも一般道で。
しかしプロであろうと所詮は人間。ケアレスミスは誰でも起こしうる。実は自分も昨日、剣からの下りで浮石に乗ってバランスを崩した。幸い咄嗟のリカバリーで転ぶことなく、お客さんからは「私たちだったらそのまま転落していたわね。」と拍手をいただいたが、自分としてはかなり恥ずかしかった。以前、北鎌でも薄く凍った岩の上に足を乗せてツルっと滑って千丈沢側に一回転したことがあったが、その時も咄嗟に枝をつかんで滑落を防いだ。
明日は我が身。磯貝さんが「お前も気をつけろよ!」と言っているようだ。
ご冥福をお祈りします。